ヨルダンの国民食マンサフ:羊肉とヨーグルトが織りなす伝統の味

Jordan

あなたはマンサフという料理をご存じでしょうか?
最近ユネスコにも登録されたこの料理は奥深い背景や文化を持っています。
今回はそんなヨルダンの伝統料理マンサフについてご紹介します!

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マンサフとは

マンサフはヨルダンの伝統料理で国民食として愛されています。
羊肉を発酵、乾燥させたヨーグルトで煮込み、ライスまたはブルグルと共にフラットブレッドの上に盛り付けて味わいます。

文化的、社会的な意義を持つこの料理には、適したエチケットや食習慣も存在します。
今回はそのエチケットなども含め網羅的にマンサフをご紹介していきます。

マンサフの歴史

マンサフの始まりは遊牧民であるベドウィンの保存食だといわれています。
長期保存できる食料として彼らはマンサフのソースの原型であるジャミードを作りました。
ジャミードはヤギや羊のミルクを発酵・乾燥させた保存食です。
マンサフの独特の酸味はこのソースから生まれます。

そしてマンサフを形としたのはモアブ王国のモアブ王です。
今から約3200年前、イスラエル人との戦いで民の忠誠を示すためにつくられました。
これはユダヤ教の戒律(乳と肉を混ぜて調理してはならない)に対しての挑戦とされています。

当時のマンサフは肉のスープに浸した薄焼きのパンに腹持ちがいい粗挽き小麦を加える形が一般的でした。
その後、ジャミードで煮込んだ肉を乗せるようになり、それが今のマンサフとなりました。

また、コメやナッツの導入は近代になってからです。
まず、1950年代に交易路の発達により従来の粗挽き小麦に代わって米が使われます。
1960年代になると、ローストしたアーモンドや松の実が飾りに加えられました。
その結果、ジャミードソースで肉を煮込む調理法が広まり、風味がより豊かに進化しました。

マンサフの話題

マンサフは国民的アイデンティティの象徴へ

最初はマンサフはベドウィンや農村部で食べられていた料理でした。
しかし、20世紀前半、ヨルダン政府によって「国民食」として広く宣伝されるようになります。
その過程で、都市部や国家的な場にも浸透し、「Bedouin tradition(ベドウィンの伝統)」の象徴として位置づけられました。

ユネスコの無形文化遺産に登録

ヨルダンは2021年に「Mansaf in Jordan: A Celebratory Meal and Its Social and Cultural Significance(ヨルダンのマンサフ:祝祭の食事とその社会的・文化的意義)」という形でユネスコに申請します。
その結果、2025年7月にユネスコの「無形文化遺産」に登録されます。

この登録では、マンサフが「3,000年以上に渡る伝統」「地域産のラムやジャミード、伝統的なパンなどの自然素材の使用」「ジェネラスなもてなしと社会的な結束の象徴」として評価されています。

「鶏肉マンサフは本場じゃない」

一部では「ジョーダン人にとっては“鶏肉マンサフ”は合わない」というジョークがあります。
伝統的には羊肉が主流であるというこだわりが、ユーモアを交えて語られます。

マンサフは和解の象徴

マンサフは単なるご馳走ではなく、部族間の争いを終わらせる「和平の儀」としての役割もあります。
対立する部族の長が集まり、羊やヤギを犠牲にしてマンサフを囲むことで「和解」の意思を示す文化的・社会的習慣があります。

地域ごとの特色

アル=サルト(Al-Salt)とアル=カラク(Al-Karak)

ヨルダン高地にあるこれらの地域は、「最も美味しいマンサフを作る」として評判です。
特にアル=カラクは、品質の高いジャミードの産地としても有名です。

パレスチナ西岸部およびネゲヴ砂漠

これらの地域でも「マンサフ」が主要な料理として親しまれていますが、地域の好みや入手可能な素材に応じて調理方法が変化しています。

アカバ(Aqaba)周辺

港町アカバでは、魚を使った「フィッシュ・マンサフ」が存在します。
これは、羊肉の代わりに魚を用いる地域的な変種です

都市部・北部地域(パレスチナ、レバノン、シリア、ヨルダン北部

正式な式典向けではなく、家庭や気軽な場面で食べられる「シャクリーヤ(Shakreyyeh)」や「ラバン・エンモ(Laban Emmo)」と呼ばれるバージョンがあります。
これらはジャミードの代わりに通常のヨーグルトを使い、鶏肉で調理されることもあります。

現代的な“カップ提供”スタイル

アンマンの一部レストランでは、持ち帰り用のカップに入れたマンスーフを販売する試みもあります。
便利との評価もありますが、一方で「格式や尊厳を損なう」として伝統的価値の軽視だと批判されることもあります。

マンサフの作法・エチケット

マンサフはヨルダンの国民食であると同時に、食べ方やマナーにも独特の文化が反映されています。
みんながおいしく食べるために皆さんも知っておくとよいでしょう。

右手で食べる

  • マンサフは伝統的に大皿に盛られ、参加者が一緒に囲んで食べます。
  • 食べるときは右手を使い、左手は食事に使わないのが礼儀です。
  • 手でご飯と肉、ヨーグルトソースを丸めて一口大にし、直接口に運びます。

自分の前のエリアだけ食べる

  • 大皿を複数人で囲むため、自分の正面の部分だけ食べるのがマナー。
  • 他人の前に手を伸ばすのは失礼とされます。

最初にホストが一口食べる

  • 招待された席では、主催者(ホスト)が最初に手をつけるのを待ちます。
  • ホストが食べ始めることで「皆さんどうぞ」という合図になります。

スプーンやフォークの使用

  • 都市部や現代の家庭ではスプーンが用意されることもありますが、伝統を重んじる場では素手で食べることが尊重されます。

食べるスピードと礼儀

  • 早すぎるのも遅すぎるのも失礼とされ、周囲と合わせるのが望ましいです。
  • お腹がいっぱいになったときは軽く「ごちそうさま」の意味で手を口から離し、食べ終えた合図をします。

特別な場でのマンサフ

  • 結婚式、葬儀、宗教行事、外交の場など、ヨルダンではマンサフが重要なもてなし料理とされます。
  • 特に客を歓迎するときに出されるため、出された側も丁寧に食べることが期待されます。

マンサフの作り方

材料(4〜6人分)

  • ラム肉(骨付きが望ましい)… 約1.5kg
  • ジャミード(乾燥ヨーグルト) … 200g
    ※入手困難な場合 → ギリシャヨーグルト+サワークリームで代用可
  • バスマティ米 … 3カップ
  • フラットブレッド(Shrek/Markook) … 適量
  • 松の実またはアーモンド(ロースト用)… ½カップ
  • バターまたはギー … 大さじ3
  • タマネギ … 1個(粗みじん)
  • スパイス類
    • クミン … 小さじ1
    • ターメリック … 小さじ1
    • シナモン … 小さじ½
    • ローリエ … 2枚

下準備

  1. ジャミードを戻す
    • 乾燥ジャミードを水に一晩浸して柔らかくする。
    • ミキサーでなめらかにし、必要に応じて水で伸ばす。
    • (代用:ヨーグルト+水 1:1 にサワークリーム少量を加えると近い風味になります)
  2. 米を浸水
    • バスマティ米を洗い、30分ほど水に浸けておく。

調理手順

  1. ラム肉を煮る
    • 大鍋にラム肉・タマネギ・ローリエを入れ、かぶる程度の水を加える。
    • アクを取りながら弱火で約1.5時間、肉が柔らかくなるまで煮る。
  2. ジャミードソースを作る
    • 別鍋で戻したジャミードを温める。
    • 肉の煮汁を少しずつ加え、好みの濃度に調整。
    • 塩・スパイスを加えて味を整える。
  3. 肉をソースで煮込む
    • 煮上がったラム肉をジャミードソースに移し、さらに15分ほど煮込む。
  4. ご飯を炊く
    • 別鍋でギーを熱し、クミン・ターメリックを炒める。
    • 浸水した米を加え、塩を振って軽く炒める。
    • 肉のスープを加えて炊き上げる(炊飯器でも可)。
  5. 盛り付け
    • 大皿にフラットブレッドを敷く。
    • 炊いたご飯を広げ、その上にラム肉を盛る。
    • ジャミードソースを上からたっぷりかける。
    • ローストした松の実やアーモンド、刻みパセリを散らす。

まとめ

いかがでしたか。
マンサフはヨルダンの国民的な料理であると同時に、文化的、社会的な意義も多くある料理でした。

マンサフはヨーグルトで肉を煮込むという独特な調理法を持ちます。
それゆえにヨーグルトの酸味や肉の濃厚な旨味を堪能できる特別な一品であると思います。

日本ではあまり存在しないであろう特徴を持つマンサフについて、調べていくうちに私も強い興味を持ちました。
しかし、現在日本でマンサフを提供しているお店はあまり多くはないようです。
なので、上記で紹介したレシピなどで家で作って味わうのがいいのかもしれません。

この記事を見てひとりでも多くの人がマンサフについて興味を持ってくれたら嬉しいです。

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